第六回
「
みさとサンの待っていた人
」
外のお客サンとの会議の席で何回かお会いしているだけの人。なのに、関西の親戚を見送りに行った東京駅新幹線ホームでバッタリ会って、いきなり「時間がとれたら食事でも」と誘われた。ありがとうございます。いえ、今日はちょっと。また、改めて。と、なにげなく逃げたつもり。でも、けっこう粘ってくる。
週に1回は電話がくる。秘書さんに頼んで会議とか、外出ということにしてもらっているが、でも度重なると、出ないわけにもいかない。申し訳ございません…といって受話器をとる時の気まずさ。といっても、あちらも紳士的に話されるので、不快感はないけれど、正直いって気は重くなる一方だ。
ただ、今となればそうだった、と言うべきかもしれない。
電話がかかってこなくなってから、もう3週間。季節が夏に移ったような気がする。
私の気が楽になったかというと、そうでもない。かえって、気になっているのだ。
もしかしたら、病気かもしれない。そんなんじゃなくて、海外出張という可能性も。いや、それなら、でかける前に連絡があるだろう。とすると…
打ち合わせ中に、不意に5〜6秒、受話器に気がとられ、眼が離せなくなってしまったりすることもあって、我ながら、口元でにが笑いしてしまったり
別になんでもないんだから、カンケーない。
好みのタイプでもないし、押しが強そうで。
仕事の話を聞いたら勉強になりそうだけど、でも…、めんどくさい。そう思っている。
来期のマーケティング戦略会議が、もうすぐ終わりそう。
みさとサンもPCで作成したチャートをつかって、もう少し細かくターゲットを絞った広報的チャレンジを発表して、担当役員からも「面白い」とOKがでた。
ホッとしてデスクに戻ると、秘書さんからメモが入っていた。
「片岡様よりtelあり。ご連絡いただきたいとのこと。7時までの電話番号は……」
みさとサンは表情も変えないで、腕時計に眼を走らせる。